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2008年 05月 17日

シノ -4-



 

長者が森の駐車場のちょうど中央に、バイクと並んで立つ人の姿が見えた。雰囲気からしてあれはきっとシノだろう。俺を追い抜いていったあのバイクは、シノだったのだ。なんとなくは予測できたが、あまりにも軽装だったせいか、確信までは持てなかった。

俺は駐車場へ車を入れ、シノの横に止めた。上下黒のライダージャケットを着たシノは、カメラをこっちに向け、構えている。また、俺を撮っている。そういえば俺はシノの血液型を知らない。右と言えば左。左といえば右と言う。嘘がミエミエ。会話に主語を付けない。・・・たぶん想像が付く。今日も早速、その想像通りの行動だ。

「おはようございます」俺は車を降り、シノに声をかけたが、相変わらずカメラを構えたまま、ファインダー越しに俺を見ている。俺は呆れた顔をして、再び声をかけた。

「おっはよーんんん」。シノはカメラを顔から逸らし、片目でこっちを見ながら、ニヤリと笑った。やはり、まともに接しても相手にしてくれない。

「おっD40じゃん」俺は、小さいカメラを持つシノの姿に異様な雰囲気を覚えた。シノは、いいだろと言った様子で、ストラップが付いてないD40を片手で持ち上げ、空にかざし、そのままシャッターを切った。相変わらずの行動だ。

「後ろから煽られたのもビビッたけど、お前がD40使ってるのも相当ビビッたな」 案外似合ってたので、思わず目じりが緩んだ。

「売ったんだ」躊躇する様子もなくつぶやいた。

「カメラ一式、レンズ一式、羽毛布団一式、全部売ったんだ、今はこのD40とこの標準レンズだけさ」 おれはあえて突っ込みは入れなかった。シノはD40を得意そうに構え、何を撮るでもなく、カメラを構えている。

完璧に揃えていたカメラ機材をあっさり売ってしまったとは、さすがに驚いたが、売った理由を聞く必要もないと思った。これもシノらしいと思えば理解できた。

「やるな」俺はシノの方をポンと叩いた。



「コーヒー飲むか」 シノが言った。シノのいつものセリフだ。シノとの待ち合わせは、必ず自販機から始まる。

俺たちは、駐車場の隅にひっそりとある、自動販売機でコーヒーを買い、誰も居ない駐車場の中央に座った。シノが手に持っている物はコーヒーではなく、コーンポタージュだったのが気になったが、ここもすんなりとスルーした。

カーン!っとプルタブを開ける音が、当たり一面に響き渡った。




by ilove-dart | 2008-05-17 23:13


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